アイビーとスカイのとある日のお話。ちょっとだけ精霊2人も出てきます。
すこーしだけ猟奇的かもしれない描写がなくもないかもしれないので一応注意。
◆◇◆◇◆
(――すごい)
歓声鳴り止まぬ闘技場の観覧席にて、目の前で行われている試合を見ながら、アイビーは目を見開いていた。
現在試合を行っているのは、一人は身長2メートルはあるであろう、体格のよい斧戦士。そしてもう一人は、自身の背丈の半分以上の長さの剣を構えた、空色の服に身を包んだ女性だった。
「オイオイオイ姉ちゃんよぉー、 避けてばっかじゃつまんねえよー!」
「もしかしてビビっちゃってる感じ?」
「仕方ないよね。相手はあの“豪腕の疾風”なんだし」
「姉ちゃーん、怖けりゃサレンダーしても良いんだぜー?」
試合が始まってからずっと、相手の攻撃を避けるばかりで、全く攻勢に出ようとしない彼女に向けて、主に野郎共が野次を飛ばしている。
好奇、同情、あるいは挑発。それらは全て、対戦相手の優位を感じて放たれたものである。
だが、実際は逆だった。
50は下らないであろう攻撃の、その全てを避けてなお、彼女の表情は変わらない。
対する相手の方は、観客席からは分かりにくいが、疲労と焦燥が滲み出ている。
そのことに気付いている者にとっては、どちらが優位に立っているかと聞かれれば、答えは明らかに前者の方だった。
「おおおおっ!」
疲労を感じているだろうに、それを微塵も感じさせない叫びと共に、斧戦士が再び振りかぶった。
威力、速さ、全てが申し分ない。そんな斧戦士の、まさに全力が込められた渾身の一撃を……
「――」
やはり、彼女は寸前で躱す。
そして――
「……ッ」
次の瞬間、彼女の剣が、斧戦士の首元にぴたりと当てられていた。
そこから逃れる隙は無い。しばしの沈黙の後、斧戦士は諦めたように息を吐き、両手を上げて降参の意を示したのだった。
「そこまでーーッ! 勝者、青コーナー・冒険者スカイ!!」
そうして青い旗が高く掲げられた直後、闘技場が一層の歓声で埋め尽くされる。
野次を飛ばしていた者たちも、手のひらを返したように賞賛する中で、しかし彼女は何も言わずに、対戦相手と挨拶だけ交わすと、さっさと競技場から去っていってしまった。
(すごい)
周囲の歓声が鳴り止まぬ中、アイビーはただただその場に立ち尽くしていた。
彼女の動きが、脳裏から消えない。
相手の攻撃を軽やかに躱す様は、まるで、天を舞うようで。
結局、その後の決勝戦で勝利を収めたのは別の人物であったが、アイビーの目には、その女性の戦う姿が、強く強く焼き付いていたのだった。
「……いた!」
闘技場から少し離れた路地裏で、アイビーは探していた人物を発見した。
長い茶色の髪に、空色の服。獲物は持っていなかったが、確かにそれは、アイビーの目に焼き付いたあの女性の特徴と一致している。
(さて、見つけられたのは良いけど……)
うっかり見つかったりしないように、物陰に隠れながら、アイビーは考える。
やはり、流石に無理があるだろうか。
相手にとって自分は、ただの見ず知らずの他人。
(……それでも)
他の誰でもない。どうしても、彼女に“それ”を頼みたかった。
このチャンスを逃すわけにはいかない。ぎゅっと拳を握り、意を決して、アイビーは物陰から飛び出した。
「……あのっ!」
突然呼びかけられたことに面食らったのか、僅かに目を丸めている彼女のもとまで駆け寄り、息を整えて顔を上げる。
「あの、さっき、闘技場で戦っていた方……ですよね?」
「……あなたは」
「ぼく、アイビーって言います。えっと、その……
――ぼくに、戦い方を教えてください!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アイビーと例の女性は、再び闘技場へとやってきていた。
しかし、訪れたのは先ほどのメインアリーナではなく、裏口から入った、なんとも年季を感じさせる部屋だった。
「ここは……」
「昔、私がよく練習していた場所」
小さく紡がれた言葉が、部屋の中に溶けていった。
案の定、というべきか、アイビーの懇願に対する当初の返答は「ノー」だった。
自分のは我流だから、とか、もっと強い人や教え手はたくさんいる、など、様々な理由が挙げられた――無論、それ以外の理由もあるのだろうが――。
しかし、アイビーはその全てに食い下がった。
他のどれよりも、あなたの戦いに目を奪われたのだと。
他の誰でもなく、あなたの指南が良いのだと。
実際の言葉は支離滅裂で、自分でもまとまりの無いことを言っているような自覚はあったが、それでも、アイビーはどうしても、闘技場で鮮やかな戦闘を披露した目の前の女性に、戦い方を教えてもらいたかったのだ。
そうしてしぶとく粘っていると、不意に、彼女はこう尋ねてきた。
「あなたは、何故強くなりたいの?」
そんな問いかけに、アイビーは自身の胸の内を吐露した。
「……ぼく、冒険者をやってて、仲間にリーダーを任されてるんです。でも、全然戦いが上手じゃなくて、いつも助けられてばかりで」
自分が戦えられば、もっと楽に済ませられたであろう、そんな依頼も少なくはない。
仲間は気にするなと言ってくれるものの、アイビーは、今のままでは、リーダーとしても冒険者としてもダメだと強く思っていた。
「ぼくも、助けられるようになりたい。助けられるばかりじゃなくて、みんなを守れるように。そのために、ぼくは強くなりたいんです! だから……!」
アイビーは深く頭を下げた。しかし、しばしの沈黙の後、彼女は無言で踵を返す。
やっぱり駄目か……そう思って、アイビーが肩を落とした瞬間、
「――アイビー君、だったかしら」
「えっ、は、はい」
「着いてきて」
そう言って、彼女は再び歩き始める。
そんな彼女の背を、呆けたようにしばし見つめた後、アイビーは我に帰り、慌ててその後を追いかけたのだった。
……そんなことがあって、今ここに至る、という訳だ。
(闘技場の中に、こんなところがあったんだ)
闘技場には何度か来ているが、いつも用事があるのはメインアリーナの方だったため、このような裏の部屋の存在は知らなかった。
アイビーがあたりをきょろきょろ見回していると、彼女は、奥から何やら人型の模型のようなものを運んできた。手には木刀に似たものが取り付けられており、見れば、肩のあたりには、賢者の塔で作られたことを示す小さな印が付いている。
「アイビー君、あなた、武器は何?」
「あ、えっと……大鎌です」
「なるほど」
何やら模型をいじりながら、彼女はアイビーに問いかけ、その答えに頷いた。
「……戦いにおいて大切なのは、当然だけど、自分が戦闘不能にならないこと。仲間を守りたいと思っているなら、尚更ね」
いくつかのパーツを調整して、背中のスイッチを押すと、うなだれるような姿勢をしていた人型模型が、ゆっくりと、直立の姿勢に移行していく。
「じゃあ、戦闘不能にならないためには、何をすれば良いと思う?」
「えっ? えっと……やられる前に倒す、とか?」
確かにそれもあるけど、と言いつつ、彼女はアイビーにこう言った。
「大事なのは、避けること」
こちらに向き直ってそう言う彼女の表情は、とても真剣なものだった。
「要は、攻撃を受けなければ良い。もちろん、世の中には絶対必中の魔術だったり、避けるのが極めて困難な攻撃もあったりするけど、当たり所を考えてダメージを減らせれば、戦闘不能になる可能性を低くできる。それに、相手の大技を避けることができれば、絶好の攻撃チャンスにもなる」
脳裏に、闘技場での彼女の戦いを思い浮かべてみる。
確かに、避け続けるうちに相手には大きな隙が生まれ、彼女はそこを突くことで、手数は少ないながらも確実なダメージを与えていた。
「だから、まずは相手の攻撃を見切る練習をすること。とりあえず、1分間、コレの攻撃を避け続けてみて」
「! ということは……」
「……あまり時間は取れないけれど、少しだけなら」
遠回しではあったが、彼女の口から出たのは、紛れもなく、アイビーが切望していた「イエス」に違いなかった。
「ありがとうございます! よろしくお願いします!!」
感動が胸に湧き上がり、これ以上なく深々と頭を下げる。
お礼はいいから、という彼女に促され、急いで己の獲物を用意して、アイビーは気合いと共に人型模型の前に構えた。
「じゃあ、いくわよ」
「はいっ!」
人型模型の両目に、赤い光が灯る。
直後、ガションガションという音を鳴らしながら、人型模型はアイビー目がけてその手に持ったものを盛大に振りかぶってきた。
「うりゃあっ!!」
初撃は勢いよく躱し、二撃目、三撃目も難なく躱した。が、そこまでいったところで、突然それまでよりも模型の動きが早くなった。
「わああああ!?」
右に左に翻弄され、目が回りそうになる。
やがて、足がもつれてバランスを崩してしまったところに、真上から振り下ろされた木刀が――
パコーーーーン!
「痛ったぁーーーー! ……い?」
音は盛大だったが、衝撃はそれほどでもない。人型模型の木刀は、当たっても痛くない親切設計らしい。
もっとも、痛くないといっても、攻撃を受けたということに変わりはないが。
「……うん、20秒ほどってところかしら」
「ううう……」
たがが1分、と思っていたが、想像以上に高いハードルである。
そのことを大いに思い知らされ、アイビーはうなだれることしかできなかった。
「大丈夫、最初は私も似たようなものだったから」
「えっ!?」
彼女の言葉に、アイビーは目を見開いた。
斧戦士の攻撃を鮮やかに躱していた彼女の姿からは、とても想像がつかなかったからだ。
「誰だって最初からできれば苦労しないわ。実演を経験した上で、少しずつ立ち回りを確認していきましょう」
「はいっ!」
大の字に伸びた姿勢から、アイビーは勢いよく起き上がる。
そんなアイビーを見つめる彼女の表情は、少しだけ、笑っているように見えた。
こうして、アイビーにとって奇跡ともいえる指南が始まった。
相変わらず、パコーンと盛大な音は響いていたが、その頻度は、時間と共に次第に減っていったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
時間が経つのはあっという間なもので、先ほどまで高く昇っていたように思われた太陽は、今やその身を地平線へと沈めようとしていた。
「本当にありがとうございました! 完全にぼくの我儘だったのに」
人型模型の攻撃に無惨に散ってからというもの、彼女はアイビーに様々なアドバイスをしてくれた。
構え方、視線、重心の動かし方。どれも今までは考えたこともなかったことで、初めはなかなかうまくいかなかったが、意識して動いてみるにつれて、少しずつ、それらしく動けるようになっていった。
結果、最後の挑戦では、見事1分間、模型の攻撃を躱し続けることができたのだった。
「良いのよ。やろうと決めたのは自分の意思だから」
深々と頭を下げるアイビーに、彼女はそう答えた。
夕日に照らされたその表情は、出会った当初よりもずっと柔らかい。
穏やかで優しいその笑顔は、大層綺麗なもので、アイビーは頬が赤くなるのを感じて小さく頭を振った。
「あ、あの、聞いても良いですか? 何で、教えてくれる気になったのか」
誤魔化しも兼ねて、アイビーは、そんなことを尋ねてみた。
彼女は少し迷う素振りを見せた後、ふと、遠くを見るような目をして、小さくぽつりと呟いた。
「……きっと、思い出したからね。強くなりたいと思った、もう二度と、大切なものを失いたくないと思ったときのことを――」
冷たい風が、憂いを帯びる。
……が、直後、そんな空気を吹き飛ばすように、日暮れを告げる鐘の音が、街中に響き渡った。
「あーーーーっ! そういえば、この後正門で待ち合わせだったーーーー!!」
鐘が鳴り終わった直後、突如として、アイビーがそう叫んだ。
今朝、依頼を受けたときに仲間とそう決めていたのだが、こちらに夢中になりすぎてすっかり忘れていた。
リーダーになろうという者がなんてことだ、と、内心で猛省しながら、アイビーは驚いた様子の彼女へと向き直った。
「あああああ、す、すみません! ぼく、行かなきゃいけないところがあるので!
本当ありがとうございました。それでは、失礼します!!」
そう行って慌ただしく一礼して、アイビーはそこから走り去ったのだった。
「…………」
その場に残された彼女――スカイは、そんなアイビーの姿にふっと笑みを浮かべながら、小さくなってゆく背に手を振った。
やがて、少年の姿が見えなくなり、自分も宿へと帰るべく足を踏み出そうとしたその瞬間、
「!」
スカイの身体から、無数の蒼い光の粒が現れた。
「――アル」
小さな柱を形作るように集まった、蒼い光の粒が弾けると、中からヒトの形をした者――アルと呼ばれた者が出現した。
高く結んだ銀の髪に、鮮やかな紅眼。腕を組んで佇む彼の、その表情は、なんとも険しいものであった。
「アル、今まで何してたの? 突然身体(なか)に戻ったかと思えば、呼びかけても全然応えないし……」
闘技場からの帰り道、路地裏でのことを思い出す。
催しでのサクラ役――スカイとしては少々不本意であったが――という依頼を終え、それまで隣で普通に歩いていたアルが、急に立ち止まり、そのまま光となって姿を消したことを。
「……少しな。気になることがあったんだ」
何かを考え込むように伏せていた目を、しばし閉じる。
そして再び開くと、アルはスカイを見て問いかけた。
「スカイ。お前、あいつから何か感じなかったか?」
「アイビー君から? ……いいえ、特に。嘘を吐いている訳でもなさそうだったけど」
「ああ、それは俺も同意見だ。あいつの思いに偽りは無い」
だからスカイが世話を焼く気になったんだろうし。僅かに呆れを含んだアルの言葉に、スカイは悪かったわねと答えた。
「だが……」
そこで一旦口を噤んで、アルは目をやった。眼前に続く道……アイビーが走り去っていった方向へと。
「あのとき――あいつが駆け寄ってくる直前、一瞬感じたんだ。泥のように、血のように、どろりとした悪意を纏った、そんな魔力を」
思い出すのもおぞましい。言いながら、アルは知らぬうちに、腕に力を込めていた。
「……まさか、彼は悪魔と」
「いや、違う。お前が世話を焼いているときに見ていたが、あいつは普通の人間だったし、あの魔力も、決して悪魔のものではない……と、思う」
「珍しく自信なさげね」
「仕方ないだろう、本当に一瞬だったんだから。……ただ」
眉間に刻まれた皺が、一層深くなる。
街灯で羽を休めていたカラスが、カアと鳴いて、空へと飛び立っていった。
「俺は以前にも、どこかで感じたことがある気がするんだ。あれに似た魔力を」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
避ける。避ける。
闇夜に覆われ、辺りは暗い。
昼間までの自分なら、こんな状況で戦うなど、決してままならなかったことだろう。
(行ける――!?)
思った直後、相手が自らの獲物を大きく振りかぶる気配がした。
「!」
これまでで最も力の籠められた、必殺の一撃。
(――よく見ろ。引きつけろ。相手の狙いは……!)
天が味方するかのごとく、辺りを僅かに月が照らした。
恐怖を押し殺し、ぎりぎりまで引きつけた、その一撃が直撃する……その寸前、アイビーは紙一重でそれを躱した。
「――!?」
渾身の一撃を躱され、相手は大きく体勢を崩す。
それは、誰の目から見ても明らかな、あまりにも明確な――隙。
「はああああっ!」
重力のままに、大鎌を振り下ろす。
そうしてどさりと音を立てて、地面に倒れ込んだ相手は、それきり、起き上がることは無かった。
「――や、やった……?」
まだ信じられないといった様子で、アイビーはおそるおそる振り返る。
先ほどまで敵意を剥き出しにして暴れ回っていたソレは、今や倒れ臥し、動く気配はない。
そのことを確認できた瞬間、アイビーはぱあと表情を綻ばせ、思わず握った拳を天に高く突き上げた。
「やったあー! 勝ったーー!!」
初めて一人で掴んだ勝利に、喜びが次々と溢れ出る。
そうしていると、不意に、後方から、パチパチと乾いた音がした。
「見てたよ、アイビー。すごいじゃない」
「!」
破顔した顔のまま、アイビーは音のした方に視線をやる。
見ると、向こうから人影が近付いてきていた。
薄墨色の正装を纏い、一部だけ長い髪を揺らしている。僅かな月光が映し出した桃色の瞳は、アイビーもよく知っている人物のもの。
「イル!」
「以前とは動きが別人だ。無闇に突っ込まず、相手の動きを見切り、確実に隙を突く。シンプルだけど強力で、実際にやろうとすると、言うよりも遥かに難しい。いつの間に習得したんだい?」
「へへへ、実はね――」
喜びを滲ませながら、アイビーは昼間のことを話した。
闘技場で見た戦闘のこと。そこで戦っていた人に、戦い方を教えてもらったこと。
「へーえ。良い人に教えてもらえたんだね」
「うん! でも、まだ意識しないと全然だし、もっともっと練習しないと」
「うんうん、アイビーが強くなるのは僕も嬉しいからね。応援してるよ」
「ありがとう、イル! ……ん?」
不意に、何かが頭を過ぎったような気がして……よく考えてみると、アイビーは己の冒した致命的な失敗に気が付いた。
「ああっ! しまった、あの人に名前聞くの忘れた!!」
「あらら」
悲壮的なアイビーに対し、イルの反応は大層軽い。
「まあ、きっとまた会えるよ。そう落ち込まないで」
「うう……」
イルはそう言ってくれたが、さらによく考えると、相手の名前も確認せずに特攻してしまった。
もし依頼であったなら、なんと御法度なことか。
あの人が優しい人だったから良かったものの、と、アイビーはまたしても内心で猛省する。リーダーとしても、まだまだ身につけるべきことは多そうだ。
「……あ、そういえば、路地裏を歩いてたとき、あの人の隣に誰かいたような気がしたんだけど、どこに行っちゃったんだろう」
「誰かって?」
珍しく尋ねてくるイルに、アイビーはうんうんと記憶の糸を手繰っていった。
「えっとね、確か、髪は銀色で高く結んでて……そうそう、後ろ姿だったけど――
イルと同じような恰好だった気がする!」
アイビーの言葉を聞くと、イルは一瞬目を丸め、それから、くつくつと愉しそうにほくそ笑んだ。
「なるほどね。……ふふっ」
「イル、知ってるの?」
「いいや、知らないヒトさ。……それより、早く報酬を貰って帰ろう。今夜は僕が奢ってあげる」
「本当!? わーい!」
うさぎのように跳ねながら、アイビーはイルとその場を立ち去る。
後に残ったのは、紅色の水溜まりと、その中に佇む、首の無い人型の肉塊だけだった。